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  • 2023/01/26

謎だったマツダRX500ショーカーの心臓部が明らかに

1月26日、広島市の広島マツダ大州店にて、ヌマジ交通ミュージアム所蔵の「マツダRX500」ショーカーのエンジンオーバーバーホールが開始され、謎のエンジン本体の構成が明らかになっています。

1970年の東京モーターショーに出展されたRX500ショーモデルは、のちにマツダの取締役デザイン本部長となる福田成徳さんがデザインしたコンセプトカーで、流麗なスポーツカーフォルムのミッドシップに10A型ロータリーエンジンを搭載しています。欧州のカロッツェリアが手がけたかのような先進的なデザインで、注目を集めたクルマです。モーターショーのパンプレットなどには、12A型ロータリーエンジンが搭載されているとの記述があったらしいのですが、実はレース用の10A型ペリフェラルポート仕様が搭載されていました。長く他のコンセプトモデルと共にマツダの倉庫に眠っていたものを、広島市が運営する広島交通科学館(現ヌマジ交通ミュージアム)に寄贈される際にオーバーホールされ、走行可能な状態に再生され現在に至っているものです。2011年秋にマリーナホップ駐車場にて開催された広島モーターフェスティバルというイベントでデモ走行したのちは、主に同ミュージアムで人目に触れる他は、定期的にエンジンに火入れされコンディションを保っている状態でした。しかし、近年は、その定期メンテナンスの際にもエンジンが始動しづらくなっており、保守整備を担当するクロマの伊藤英彦さんからの提案でエンジンオーバーホールを実施し、エンジンの状態をリフレッシュしようということになりました。

エンジンオーバーホールは、広島マツダのOBで、ロータリーエンジンの再生やチューニングを手掛けてきた河尻隆行さんがリードする中、広島マツダHMRのレースメカニック田頭翔太さんが作業を進めました。分解作業には、当時オリジナルのエンジンを組み上げたマツダOBの松浦國夫さんも立ち会っています。分解する前のコンプレッションテストでは、リア側はほぼ標準値を示しているのに対し、フロント側のコンプレッション値が2室分ゼロであり、アペックスシールの損傷などが疑われていました。ディストリビューターやオイルポンプ内蔵のフロントカバーなどを外し、固着したフライホイールを力任せに取り外すと、次はテンションボルトを丁寧に抜き、いよいよ主要パートに別れて取り外すことができるようになります。松浦さんは、「確か当時は、1970年のスパ24時間レース出場のため、くる日もくる日もエンジンを準備していました。そんな中、ショーカーに搭載するエンジンを用意するように、との指令がきましたが、私たちはレース用エンジンだったらすぐ用意しますが、特別な仕様を組み上げることはできません、と返答したと思います」と語っています。そのため、ロードカー用としては扱いづらいペリフェラルポート仕様となっているようです。分解していくと、フロントハウジングはアルミ製(初期型コスモスポーツL10A用)であり、その他のサイドハウジングがスティール製となっていることが判明しました。河尻さんは、「おそらく2011年に再生した際に、ローターハウジングとサイドハウジングに何か不具合があり、一部を量産車用に置き換え、加工したのではないかと推察します」とのこと。松浦さんも、「ふたつのローターハウジングのウォータージャケット形状が異なっており、排気ポートの形状も同一ではありません。苦労して量産パーツを加工した痕跡が窺えます。それでもファクトリー仕様のパーツが随所に使われており、元は私たちが組んだものだとわかります。スポーツキットとして販売したものも中にはありますが、設定していないもので加工痕のないものはファクトリー仕様しか存在しないからです」と語っていました。

オーバーホールの結果、フロント側ローターのアペックスシールとコーナーシールの1箇所がスティックしており、それがコンプレッションゼロの原因だということがわかりました。河尻さん曰くは、フロントとリアのローターハウジングを均一化したほうが良いし、フロントローターの軸受メタルが焼き付きかけているので修復が必要ですが、それ以外はサイドハウジングのローター摺動面も綺麗なもので、シール類も一部はそのまま使えそうとのことでした。アペックスシールのスティック原因もスラッジやカーボンがこびりついたことに起因するようで、大きな問題ではないようです。「装着されていた日本気化器製ダウンドラフトキャブを分解して見たら欠損部品をそのまま組み上げていましたが、部品を調達してすでに修復しました」と河尻さん。ショーカーであり、前回のオーバーホール後もほとんど長時間運転の機会がなかったことから、決定的に内部を壊してはいないようです。広島交通科学館学芸員の田村規充さんは、「内部が絶望的な状態でないことがわかり、安心しました。なんとか前回のオーバーホールで使用不能とされていた部品を探し出し、修複してオリジナルの状態にもどして再生できればよいと思います」と語っています。松浦さんも、「53年以上も前に私たちが手がけたレース用10Aエンジンの分解に立ち会えるとは思ってもみませんでした。今日は良いものを見せてもらいました」と笑顔で帰っていかれました。

このレース用10Aエンジン再生が完了し、再びRX50oが走行できる日が来たらまた立ち会いたいと思います。

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