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  • 2022/11/14
  • RPR

パーティレーサーに朗報。「DSC-TRACK」の開発進む。

MAZDA FAN FESTA 2022 in 岡山に来場された方なら、パーティレースに出場したナンバーなしの00号車の姿を目にしていると思います。マツダの開発担当エンジニアたちがサプライヤーであるボッシュ社の開発者と共に、クルマの準備とデータ計測などを行っていました。このクルマの秘密を、「アズアズ」こと自動車ライターの伊藤梓が取材し、レポートしてくれました。

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まだ、モータースポーツを始めたての頃、他のドライバーと大きく離れたタイム差をなんとかしようと、躍起になってサーキットを走っていた。それが起こったのは、走行を重ねてタイムアップしはじめ、「次はもっと良いラップができそう」と前のめりになった時のことだった。コーナーに侵入した瞬間、ふいにリアがスッと流れて、「あ!」と思った時には、カウンターをあてるのが遅れ、おつりをもらって外側のバリアへ衝突…….全て一瞬の出来事だった。その後は愛車が壊れたショックと、手痛い勉強代によって、しばらくモータースポーツから離れてしまったことがある。きっと、モータースポーツ初心者の時に同じような経験をした人はたくさんいるのではないだろうか。

こういった危険を避けるためにあるのが、横滑り防止装置の「DSC」だ(DSC=ダイナミックスタビリティコントロール。一般的には、ESCと呼ばれる)。DSCは、悪路などでクルマが滑り出した際に、車両のスピードを抑え自動でブレーキをかけ、車体を安定させるというもの。一般道では、万が一の時に助けてくれる重要な安全装置だが、モータースポーツでは、滑り出す限界まで攻めている時にこの制御が効くと車速が落ちてしまうため、邪魔になってしまうことがある。それゆえ、スポーツ走行をする際には、多くのドライバーがこのDSCをオフにして走行するため、前述した私のような悲しい結果に至ることもあるのだ。

マツダの車両開発本部操安性能開発部の梅津大輔さんは、こういった状況を目の当たりにして、「モータースポーツに関わる人たちが安心して走ることのできる技術を作りたい」と、新しいDSCの制御技術である『DSC-TRACK』を開発した。梅津さんは、これまでロードスターの操縦安定性能の開発やマツダ車全体の4WD技術の開発、よりクルマとの一体感を生むGVC(Gベクタリングコントロール)やKPC(キネマティックポスチャーコントロール)など、多岐に渡ってマツダの“人馬一体”技術を実現してきたエンジニアだ。昨年は、ロードスターのワンメイクレースであるパーティレース西日本シリーズに1年間出場し、モータースポーツの分野でもロードスターでまだできることがあると実感したという。

梅津「レースに参加して肌で感じたのは、思いのほかクラッシュが多いということです。それがよく起こるのが、レースよりも予選や練習中で『走っていて怖いけど、チャレンジしないとタイムが出ない』というシーン。現在のDSCは、法規で規定されている試験をパスするため、制御作動時にはブレーキだけでなくエンジントルクも下げる必要があります。そのため、パーティレースドライバーはDSCをオフにする人が多く、万が一の時にクラッシュしてしまう、ということが起きています。そこで、『安心して走ることができ、DSCをオフにした時と同等のタイムが出せるような技術を作れないか』と思ったんです」

そこで生まれたのが『DSC-TRACK』。約1年前から開発を始めて、11月に開催された「MAZDA FAN FESTA」で試作車を披露した。また、梅津さんは、イベント中に開催されたパーティレースに『DSC-TRACK』の開発車両で出場し、実際のレースで制御を検証するという試みも行った。

『DSC-TRACK』は、具体的にどういう制御かというと、通常のDSCは滑り出したらブレーキ/エンジントルク制御が入るのに対し、『DSC-TRACK』は滑り出しても制御は入らず、カウンターステアを入れてはじめて、ブレーキで車両運動をコントロールする。しかも、エンジントルクを落とさないため、失速が少ないこともポイントだ。ドライバーの走りを邪魔せず、最後の最後、スピンするような危険なシーンだけ、クルマが安全に助けてくれる。私は件のクラッシュ後からDSCオンで走っているが、タイムを出そうとした時に、決してスピンにはならないアンダーステアで滑っている状態でも、DSCが介入してしまい、タイムがぐんと落ちるシーンがある。「ここは踏み込んでも大丈夫なのに」と分かっているからこそ、ヤキモキすることも。しかし、『DSC-TRACK』は、こういったアンダーステアのシーンでは、基本的に介入しないようになっているという。梅津さんいわく、目標は、「『DSC-TRACK』オンの状態で、DSCオフとのタイム差をなくすこと」。開発中のデータでは、その差は0.5秒差まで縮まっているそうだ。

梅津「“制御”と聞くと、『邪魔だ』とか『自分にはいらない』と思われる方もいるかもしれません。確かに昔の技術はそうだったかもしれませんが、『DSC-TRACK』は、ドライバーの運転を邪魔することなく、万が一の危険なシーンだけを助けることを目的としています。また、『DSC-TRACK』があるから速くなるという技術でもありませんし、あくまでモータースポーツのリスクを下げるというところがコンセプトです。ロードスターのエキスパートのドライバーなら、安全性は担保しながらDSCオフ時とのタイム差がなく走れるようにしようと思っていますし、初心者なら安心感を持ってもっと限界までチャレンジできる、そんな技術にしていきたいです」

DSCの制御に関しては、これまでマツダはボッシュ社と密に開発を続けてきた。もちろんそれは『DSC-TRACK』も同じ。『MAZDA FAN FESTA』では、『DSC-TRACK』の開発に携わったボッシュ社のシャシーシステムコントロール事業部の佐藤大介さんと田村誠志さんもいらしていた。お二人とも、実際のサーキットでレースデータを検証することは初めてのこと。また、今回のイベントでは、実際にレースに出場している人たちの生の声を聞くことで、得られることもあったという。

佐藤「マツダさんとは、DSCの開発を長年一緒に続けてきましたが、お客様とお話する機会を持ったのは初めてです。自分が開発したものについて、お客様から直に意見をもらえるのはとても大きな経験になりましたし、今後のモチベーションにも繋がりますね」

田村「通常、DSCやABSは、標準車でテストしているので、今回のようなレースシーンで標準車のタイヤやブレーキパッドなどを変更してデータを取るのは初めてでした。おそらくどのメーカーでも、こういったテストは少ないと思います。マツダさんがここまでやるのは、本当にモータースポーツをされる方を考えてのことなのだろうなと感じました」

『DSC-TRACK』は、様々なモータースポーツシーンで活用できるように、ある程度の範囲でタイヤやブレーキパッドを交換しても、適合できるように調整していくという。また、『DSC-TRACK』は、現在のABSの油圧ユニットを新しいものに変更するだけで使用できるため、重量増も心配ないとのこと。コストに関しても、最近の材料費の高騰に比べれば微々たるものになるという。開発は、もう半分ほど進んだというから、完成した『DSC-TRACK』がお披露目される日が楽しみだ。

梅津「ロードスターは、初めて乗るスポーツカーに選ばれることが多いクルマです。だから、初めてモータースポーツを始めるモデルにもなりやすい。だからこそ、私たちは責任を持ってサポートをしていきたいと考えています。自分でモータースポーツの現場に出向いてレースをし、実際のドライバーと意見を交わしながら開発をするのも、そこに理由があります。『ファンと共に作る』『ファンと共に育む』というのは、やっぱりロードスターだからこそできることだと思っています」

Text by Azusa Ito, Photos by MZRacing

MAZDA MOTORSPORTS ロードスター・パーティレースⅢ

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