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特集

  • 2024/06/01
  • OTHER(日本)

人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA      「マツダ電動化技術の核として増すREの存在感」

5月22日から24日、神奈川県・パシフィコ横浜において公益社団法人 自動車技術会 主催「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA」が開催された。 このイベントは、自動車産業に携わる様々な分野の技術者・研究者、並びに公的研究機関・大学・専門学校の教職員・学生を対象に毎年行われており、未来のカーボンニュートラルな自動車社会実現に向けて、各社それぞれのアプローチや新しい技術を同業他社に向けて発表、交流を図るというもの。自動車メーカーのみならず、部品、材料、CAEソリューション、電装、R&Dなど自動車に係わる550社を超える企業が参加・出展している。

マツダは、2050年カーボンニュートラルへの挑戦として、その実現に向けた2030年VISION、経営基本方針、自動車技術の研究開発におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みや、「ひと中心」とした人に歓びを届けるための技術 ActivSync思想を紹介。そして、メインには2030年に向けて進むマツダの商品電動化の一翼を担い昨年発売したMX-30 Rotary-EV Edition Rを展示。マツダ独自のシリーズ式プラグインハイブリッドシステムの電駆ユニットe-SKYACTIV R-EVの特徴とその価値をアピールした。マツダ・ブースは終始多くの人たちが詰めかけ、中央に置かれたMX-30が人混みに隠れて見えなくなるくらいの人だかりになることもしばしば。そして、展示パネルやMX-30のそばに立つマツダ・スタッフは終始来訪者から質問を受け説明を行っているほどの盛況ぶりだった。

今回の注目は、やはり新型8C型ロータリーエンジン(以下:RE)であった。
ブース内にはMX-30 Rotary-EVに搭載する新型RE・8C型と、RX-8用13B-MSP型REが分解展示されており、それぞれのローター、ローターハウジング、サイドハウジングを並べ、新旧REの変更点をパーツ個々で分かりやすく比較できるようにしていたのだが、常に人が絶えず、展示ケースに食い入るように熱心に観察・撮影している人も多かった。そのRE展示の傍らには、RE開発グループのエンジニアであり、この8C型REの設計を行った門脇寿徳氏と村端一寿氏両名が技術説明員として控えており、多くの来訪者からの質問に細かく答えていた。ちなみに来場者が登録制であるこのイベントでは、会社名・所属部署・氏名が記載された入場証を入れたパスケースを首から下げて提示入場するのだが、そこからどんな人が新型REに興味をもって質問しているか観察したところ、特に自動車メーカーや有名部品メーカーのエンジニアが多いと感じた。カーボンニュートラル追求を求められる時代に、環境性能を満たすための技術課題をどのようにREがクリアしたのか興味津々だったようだ。

人とくるまのテクノロジー展では様々な特別企画が行われ、その中でマツダ・MX-30前主査で現電動車生技部長の上藤和佳子氏による 「Mazda MX-30 Rotary-EV ~Heritage meets 電動化~」と題した新車講演会も開催された。講演会は、MX-30 Rotary-EVに込められた想い、e-SKYACTIV R-EVのシステム紹介、REの進化などの話が続き、後半パートでは、チーム一丸となって取り組んだMX-30 Rotary-EVラインオフまでの苦労話や、土壇場で追加設定を決めた特別仕様車Edition R誕生秘話やその想いなど、上藤氏の優しく親しみのある言葉で語られたMX-30愛に溢れたお話に聴講者はみな熱心に聞き入っていた。ちなみに、上藤氏はMX-30主査を後任にバトンタッチ。今後は、マツダのラインナップとして増えていく電動車の生産技術確立に手腕を振るうこととなる。さらなる活躍を期待したい。

新車講演会と同じく特別企画のひとつとして、プラスチックを中心としたケミカルリサイクル技術、マテリアルリサイクル技術のJSAE特別企画展示も行われた。この展示には、21の企業・団体が参加し、自動車業界におけるアップサイクル技術を紹介。その中の1社であるマツダは、ペットボトルリサイクルからなる、ドアトリムに用いた呼吸感素材を紹介。これはMX-30のドアトリムの一部として実際に使用されている素材であり、MX-30の空気間のある安らぎ空間を高めるために、ヘリテージコルクとともに使用されている。この繊維素材にまつわるコンセプト、製造工程や技術課題の解説が行われていた。 ドアトリムの素材となると、その部分はドライバーや同乗者の手や腕、体に触れるため、汚れづらく、時計やアクセサリーなどによる損傷に対する耐久性も求められる。しかし、その部分を強化していくと素材の風合いや成形性に難が出るため、風合い・成形性・機能性と繊維密度のバランスを追求した。MX-30 Rotary-EVのオーナーである筆者も、手触りもよいこのドアトリム素材はお気に入りポイントであるが、グレーカラーということもあり、使用上の汚れが気になるポイント。説明してくださった開発者の方のお話しでは、汚れがついてしまった場合は、中性洗剤を布に含ませて拭きとるとよいとのアドバイスをいただいた。

人とくるまのテクノロジー展は、公益社団法人・自動車技術会が主催する2024年春季大会の様々な催事の中の1つとして行われている。この春季大会内では学術講演会も開催され、自動車技術に携わるエンジニア・研究者たちがそれぞれの専門分野について発表を行った。
マツダのエンジニアも様々な分野の学術発表を行う中、先進ガソリン機関技術のパートでは、「新型ロータリーエンジン8C型の開発」、として講演が行われ、マツダRE開発グループを代表して田中清喬氏が登壇した。「ロータリーエンジン燃焼技術への飽くなき挑戦」と題して、自動車技術会会員であるエンジニアや研究者・学生たちに向けて、REの新技術、これまでのREからの進化、諸元変更、熱効率の改善、燃費・エミッション改善、ノッキング回避技術などについて発表を行った。

田中氏は、マツダ入社以来RE開発に携わるエンジニア。途中RE開発部門が解散になった際も一貫してRE開発・実研を続けていたマツダ社内でも稀有なエンジニアである。8C型開発では、燃焼スペシャリストとして、8C型の特徴のひとつである急速燃焼技術確立も担当している。これからのロータリー新時代の発展を担うREエンジニアのひとりである。
発表中、多くの聴講者を前に終始凛とした姿で淀みなくREについて解説する田中氏の姿は、長年RE開発に従事し、ようやく発売することができたこのエンジンに懸けた情熱と自信をうかがえるものであった。多くの自動車エンジニアや研究者にとって、REは興味深い存在なのだろう。講演発表時の質疑応答だけでは飽き足らず、講演会終了後も田中氏の周りを自動車メーカーのエンジン開発者や大学の研究者などが多く取り囲み質問を投げかけていた。田中氏はそのひとり一人に時間の許す限り8C型REについて丁寧に回答していた。

REファンとしては、これから未来に向けたREの進化・発展も気になるところ。
2024年2月に再結成し大いに話題になったRE開発グループは、当初36人で始まったが現在数人増員され日々開発業務に勤しんでいるとのこと。メンバーひとり一人としては再結成前と行う業務自体はあまり変わらないようだが、いざRE開発グループとしてまとまり、ひとつの部屋で机を並べることで、結束力が増しモチベーションアップに繋がったとのことだ。
昨年のジャパンモビリティショーで話題をさらったスポーツカーコンセプト「ICONIC SP」の公開以来、搭載が想定される2ローターREの開発も気になるところではあるが、門脇氏は、「8Cもこれで完成ということでなく、年々厳しさを増すエミッション規制に対応すべく、進化させないといけません。そのため日々知恵を絞っています」というように、まずは8C型を進化させていくことが重要である。世界中のエンジニアが開発に従事するレシプロエンジンと違い、REの開発はこれまで同様、世界中でマツダのみで進めていくことは変わらないはず。限られたマンパワーで年々厳しさを増すエミッション規制に対応していくことは非常に困難なことだ。
さらに、カーボンニュートラル燃料への対応も今後並行して進めていくことも求められる。REは、雑食性が高く、どんな燃料にも対応可能だといわれているが、単純にガソリンから入れ替えただけでしっかりとした性能を出せるとは限らない。マンパワーが限られる中、今回の紹介にもあったDX、すなわちMBD(モデルベース開発)、MBR(モデルベース研究)やAIを最大限に活用した研究開発も非常に重要だろう。

そして、この原稿を書いている最中、トヨタ・スバル・マツダ共同で行われたマルチパスウェイワークショップにて、マツダは新時代パワーユニットとして8Cベースの2ローター・ロータリーEVコンセプトモデルを初公開した。今後マツダが進んでいくパワーユニット・マルチソリューションのロードマップでは、REの役割が増えていくように感じられる。マツダらしい車づくりを未来に続けるには、REが欠かせないものとなっていくといっても大げさではないかもしれない。
多くの困難が待ち受けているだろうが、RE開発グループのみならず、ALLマツダによる「飽くなき挑戦」でカーボンニュートラル時代に向けたREの発展に期待したい。

text&photo by REAL-TECH Yasushi Hamaguchi

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